どうなるEVの充電方式…EUにおける「コンボ」対「チャデモ」の戦い

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欧州のコンボ方式の急速充電口
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ライバル不在の中で普及を進めてきたチャデモ方式

2014年4月15日、EU議会において「代替エネルギーインフラ整備促進法案」が提出され、圧倒的多数で可決された。実は、この法案は、日本の推す電気自動車(EV)用充電方式「チャデモ(CHAdeMO)」の未来を左右する、非常に重要なものであった。

電気自動車の普及には充電用設備の存在が不可欠だ。日本は、官民を挙げて外出先での直流式急速充電は「チャデモ方式」を統一方式として普及に励んでいる。一方で欧米は「コンボ方式(Combo)」を推しており、日本の「チャデモ」と真っ向勝負のような様相を呈しているのだ。

まず、急速充電器の現状を振り返りたい。日本のチャデモ協議会の発表によると、2014年4月の時点での世界における、チャデモ急速充電器の設置数は3688か所にもなる。内訳は、日本1967、欧州1117、アメリカ592、その他12である。その伸びは大きく、欧州は前年比70%以上、アメリカ360%以上。少しずつではあるが、確実にチャデモの普及が進んでいることがわかる。

ちなみに2014年1月に日産自動車は、EV『リーフ』のグローバル累計販売10万台突破を発表。グローバルでの電気自動車のシェア45%で、世界一数多く売れている電気自動車であるという。そのうち日本国内の販売は37000台ほど。リーフは日本よりも海外の方が数多く販売されているのだ。もちろんリーフの急速充電方式は日本のチャデモである。欧州市場においても、電気自動車シェアの約半数がチャデモ方式の急速充電器を搭載しているという。つまり、コンボ方式の急速充電器に対応する欧州ブランドの量産電気自動車が存在しなかったという背景もあり、欧州においてチャデモ方式は優位な立場にあったのだ。

しかし、今後は違う。BMW『i3』などコンボ方式の電気自動車の本格デリバリーがスタートしている。VWなども電気自動車をリリースする予定だ。

そんなところに可決されたのが冒頭の「代替エネルギーインフラ整備促進法案」だ。これは欧州各国の公共施設に設置する電気自動車用の充電設備の内容も含まれていたのだ。

◆チャデモ排斥の動きを、ぎりぎりのところで切り返した

EU連合の「代替エネルギーインフラ整備促進法案」とは、EU内の代替エネルギー利用促進の道筋を定めるもので、公共施設における急速充電器の規格選定も含まれている。2013年1月に欧州委員会から欧州議会と欧州連合理事会に提出された最初の素案では「公共施設の急速充電器はコンボを必ずつけること」とあった。つまり、その素案では、公共施設からチャデモ方式が排斥される可能性が濃厚であったのだ。

「そこで、“それはおかしいのではないのか”というポジション・ステイトメントをウェブサイトにアップしました。そして会員の企業の皆さんと各種ロビー活動を展開してきました」と、チャデモ協議会欧州事務所事務局長のブレッシュ山辺知子さんは振り返る。

さらに8月にはEU議会の中での議論の途中のレポートが発表されると、そこには「チャデモは2019年1月1日までの移行期間のみ建ててもいい」とあったという。

「業界の中では“チャデモは5年後には終わりになるのか?”という不安が漂い、それまで充電設備を作ろうと思っていた事業者の方々がピタリと投資をフリーズさせてしまったんです。じゃあ、そのお金をコンボに投資しようかというと、それもできない。その時点ではコンボのクルマも充電器もないという状況でしたから」と山辺さん。

そこでチャデモ協議会としては「マーケットリーダーに投資しないで誰に投資するのか?」「すでにたくさんの国で数多くのチャデモ充電器が設置されている。それらのユーザーや事業者が不利益になるのはおかしい」「市場にコンボは存在しないのに、そんなものを選ぶのはおかしい」などと、あちらこちらでアピールしてきたという。

そうした議論は、EU議会だけでなく、並行してEU連合理事会でも行われていた。EU連合理事会は、EU加盟国から送られてきた人間で構成されている。そこでは、充電方式だけでなく、各国の設置台数義務なども大きな問題となっていたという。

そして2013年の暮れに、EU議会とEU連合理事会のそれぞれから審議の途中レポートが公開された。それによると、EU議会は「コンボのみ」という内容であったが、EU連合理事会は「少なくとも1つはコンボを備えること」であったのだ。この差は大きい。

それは欧州ではひとつの充電器にコンボとチャデモの両方の充電口を備える「マルチ方式」の充電器が増えているからだ。設置費に+5~10%で、複数の充電方式に対応できるということで人気が高いという。つまり、「少なくとも1つは~」という文言であれば、マルチ方式は許される。

コンボよりのEU議会と、チャデモ容認のEU理事会、そして最初の提案者である欧州委員会の3者による最終的な審議による合意がなったのが2014年3月のこと。その文言は「急速充電設備は、“少なくとも”コンボ2型のコネクターを備えること」というものになった。

これにより公共施設からチャデモが閉め出されることは回避できた。しかし、コンボ方式を採用した電気自動車がこれからライバル各社から続々とローンチされる。そこでの販売合戦に敗れれば、おのずとチャデモ方式の充電設備は減っていく。魅力的な電気自動車の存在こそが、最終的なインフラの戦いを制するキーになるだろう。

《鈴木ケンイチ》

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