東北大学大学院工学研究科の高村仁教授と宮崎怜雄奈博士らのグループが、全固体電池のための新しいリチウムイオン伝導体KI-LiBH4を開発した。
EVにも広く利用されるリチウムイオン電池は、動作電圧が3.8Vと高く、電解質に耐電圧の高い有機溶媒が使用されている。しかし、それは可燃性であり、発火・破損事故も報告されている。
今回の研究では、従来、知られている酸化物系や硫化物系の固体電解質に比べて飛躍的に成形性が高く、電極材料と良好な接触性を示す「水素化物系固体電解質LiBH4(水素化ホウ素リチウム)」に着目した。
これまでLiBH4は、115度以上で安定な高温相でLi+イオンが高速で移動できることが知られており、LiBH4は高容量負極材料であるLi金属と良好な界面を形成し、全固体電池の高出力密度化を実現する電解質として注目されている。
高いLi+イオン伝導を示すLiBH4高温相は、イオンの二次元的な伝導が示唆されており、結晶のある方向ではイオン伝導性が低く、電極反応に寄与できない可能性がある。
今回の研究では、Li+イオン伝導で異方性を示さない、等方的な岩塩型構造のLiBH4に着目して新規材料を開発した。
岩塩型構造のLiBH4は、200度以上で4万気圧以上の極限状態でのみ存在する。このため、固体電解質として応用するためには、高温高圧下の岩塩型構造を常温常圧まで安定化することが求められる。
今回の研究では、岩塩型構造が常温常圧で安定であるKI(ヨウ化カリウム)中にLiBH4をドープするという、従来とは逆転の発想により岩塩型構造のLiBH4の合成に成功した。
現状、高イオン伝導度、成形性、負極との電気化学的安定性や大気中での安定性など、応用面において好ましい特性をすべて併せ持つ電解質は開発されていない。しかし、Li+イオン伝導材料に全く関係のない母格子を選択し、そこへLiを少量ドープするという今までになかった発想で、材料系の開発が可能になると期待されるとしている。
有機溶媒に代わり、不揮発性・不燃性の個体電解質を用いた全個体電池が実現すれば、安全性が改善されるとともに、電極材料や電池形状の自由度の向上も見込まれる。