トヨタ『ノア&ヴォクシー ウェルキャブ』は、“普通のクルマ化”という初の取り組みを行ったという。
トヨタ製品企画本部ZU主査の中川茂さんによると、「スロープ車を福祉目的ではなく普通のクルマとして使う際に、不便なこととして挙げられるのが、リアのスロープと2列目シートの使い勝手だ」という。
スロープは、バックドアを開けた際にスロープ板が立ちはだかることで、荷物の出し入れがしにくくなること。そして、2列目シートは(車いすが乗ることから)通常取り付けられないため、福祉車両の必要性が無くなった時に、シートがないただの空間になってしまうことだ。
中川さんは、「まず、スロープ板を室内側へ前倒しできるようにした。これで荷物の出し入れがしやすくなった。さらに、このスロープ板の上方に3列目シートも設定が出来るように工夫してある。2列目シートについても、後付シートを販売店で取り付けられるようにした。これによって、このスロープ車は普通の7人乗りとして使いやすいクルマになる」と話す。
そもそもなぜ普通のクルマ化に取り組んだのか。その背景について中川さんは、「我々の試算では車いすや杖を利用する高齢者は約500万人、日本人口の約4%にもなるが、この数字に違和感を覚えるかもしれない。それは、家や施設に閉じ籠っていたり、デイサービスの送迎が唯一の外出などで、あまり我々の目に触れることが少ないからだ」という。
「本当はウェルキャブで家族と一緒に、買い物などの外出が出来ればいいのだが、その家庭への福祉車両普及率はたったの1%と推定している。なぜ1%しかないのか。そのヒントは、ウェルキャブ購入見送り理由にあった」と中川さん。
「1番の理由は価格だったが、3番目にいつまで使うかわからないという理由があった。一般的に高齢者は車いすになってから、お亡くなりになるまでの期間が5年くらいという方が多いようだ。そうすると、福祉車両に買い替えたとしても、数年で不要となり、その時に日常の使い勝手のいい普通のクルマに再度買い替えをするということになりがちだ。その時の経済負担を冷静に考えると、やはり福祉車両は買えないという理由なのだ」と説明。
そこで、「我々は車いすの高齢者が亡くなった後でも、残る家族がクルマの買い替えをしなくても済むように、少しでも多くの家族に福祉車両を利用してもらいたい。そして、高齢者の閉じこもりを少しでも減らすことが出来ればと願って、普通のクルマ化に取り組んだのだ」と想いを語った。