トヨタ自動車がトヨタ生産方式の哲学を農業にも活かすため米生産農業法人向けに開発した農業IT管理ツール「豊作計画」。この活動がトヨタの"美味しいクルマ"づくりに役立つかもしれない。
今回、豊作計画の共同開発を行った有限会社鍋八農産の八木輝治代表は、「業務の進め方など、内部のカイゼンに期待してトヨタとの共同作業を始めた」と言う。「これまでは米価など外的要因ばかり気にして経営してきたが、実際に内部を見える化してみたらカイゼンの余地がたくさんあった」(八木代表)。
初年度は育苗と呼ばれる田植え用に育てる苗の生産コストの大幅な削減が効いて25%もの資材費削減につながった。トヨタ自動車友山常務は「まだまだシステム的にもオペレーション的にもカイゼンの余地はたくさんある」としつつ、カイゼンの結果コスト削減のみならず美味しいお米をつくることが競争力と言い切る。
一方、八木代表も育苗のコストダウンとともに余裕を持って育てることが元気で健康な苗の栽培につながったと喜んでいたことが印象的だった。製造業の担当記者の性なのか、もっと大量にもっと安く、もっと効率よくという成果に目が行きがちなところ、農業関係者の性としてもっと美味しい作物のためには手間を惜しまないという文化の違いがかいま見られた瞬間でもあった。
3000年近くの歴史がある日本の稲作だが、大規模集約化があまり進んでいない日本の農業では、個人経営のレストランのように味を良くしようという努力が積み重ねられてきたのかもしれない。
システムの開発に関して中心的な立場で導入をはかった新事業企画部喜多賢二氏には「48種類の農薬、27種類の肥料をデータベースに登録している。米の品種も鍋八さんだけで4種類。作業工程によっても作柄が違う。地質や天候などクラウドで分析すべきデータは無数に及ぶ。個人的な感触だが工程管理を進めることで3分の2のコストダウンをしたうえでさらに美味しいお米ができるのではないか」と期待を込める。
安く効率よくというキーワードとともに関係者から美味しくという言葉が響く豊作計画のプロジェクト。
農業がトヨタの工程管理を受け入れて学ぶと同じくらい、トヨタの社員が、美味しいお米のためにもう一手間加えて育てる農業から学んでいるとすれば、僕ら消費者は数年後に美味しいお米と美味しいクルマの豊作を望めるかもしれない。両者のコラボレーションを食すのが今から楽しみである。