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【スズキ ハスラー 650km試乗】大自然に似合うデザインとSUV的乗り味、そして良好な燃費…井元康一郎

自動車 ニューモデル 新型車

今年1月にデリバリーが始まったばかりのスズキのクロスオーバーSUV『ハスラー』の大ブレイクが話題になっている。発売後10日で2万5000台を突破した後も受注は積み上がり続け、仕様によっては納車待ちが何と1年近くに達する状況で、スズキは受注残の早期解消のために大幅増産中だという。


◆ワゴンRベースのクロスオーバー

軽トールワゴン『ワゴンR』をベースに最低地上高をリフトアップし、オフロード車風にデコレーションするという、比較的お手軽な手法で開発されたハスラーがこれほど受けているのは何ゆえかを体感すべく、600kmあまりのツーリングに出かけてみた。試乗車は最高グレードの「Xターボ 2トーンルーフ仕様 4WD」。

試乗コースは東京・葛飾を起点に首都高速、中央自動車道で勝沼まで走り、そこから国道20号線で長野県の茅野へ。そこから蓼科経由で標高1800mの霧ヶ峰に達した後、高速と一般道を併用して後立山連峰の秘境、高瀬渓谷の葛温泉へ。帰路は平成の大合併で村として生き残った小川村を通る山間ルートで長野へ。その後、国道18号線、国道17号中山道を通るルートでスタート地点に戻るという、総走行距離645.9kmの長大な信濃路ドライブルート。うち2割強の133.8kmが高速道路、有料道路。

全区間にわたり1名乗車で、エアコンはデフロスター時以外はヒーターのみ使用、またルートのうち7割は氷点下というコンディション。また試乗車にはスタッドレスタイヤが装着されており、乗り心地、ロードノイズ、燃費、ハンドリングなど、ノーマルに比べて若干不利な状態でのドライブだった。


◆ワクワク感をかき立てられる

ハスラーをドライブした印象だが、総論から言えばいろいろな意味でワクワク感をかきたてられる、実にナイスなクルマであった。ワクワク感の最大の源泉は、何と言ってもスタイリングだろう。ボンネットやフロントフェンダーは同社の本格オフロード軽自動車『ジムニー』と重なるインゴッド感あふれる造形。少し後ろ下がりに見えるルーフ2トーンのサイドビューはトヨタの『FJクルーザー』、リアビューはクライスラーの『ジープチェロキー』など、いろいろな部分にデジャヴを覚えるデザインファクターが盛り込まれているが、それを嫌らしいものに感じさせないよう、実にチャーミングにまとめている。

そのスタイリングは自然豊かなシーンに似合うこと、まことに甚だしいものであった。基本的な走行性能はワゴンRと変わるところはなく、圧雪路の走行性能も軽AWD(4輪駆動)としてはごく普通なのだが、デザインが気分を大いに盛り上げてくれるのだ。

霧ヶ峰を訪れた時は絶好の快晴で、サングラスをかけていないと雪目になりそうなほど雪面からの反射光が強かったが、ハスラーの小さな車体はそのような雪山の光景の中にあっても存在感を失わない。かといって、せっかくの景色の中に余計な人工物があるといった不快感を覚えさせるようなこともなく、とても良いアウトドアギアというイメージであった。


◆ワゴンRゆずりのユーティリティ

人里離れた後立山山中の葛温泉へのアプローチロードを走った時はすでに日も暮れた闇夜の時間帯だったが、ジープのような格好のクルマで走っていると思うだけでワクワクするものがあった。葛温泉の最奥部にある高瀬館は、温泉旅館がこぞって高級化するトレンドのなか、昭和的レトロ感を今も守り続ける素晴らしい宿。92度の高温泉を水で薄めず、自然冷却で適温にして濃厚成分のまま提供しており、地元の人たちがそろって太鼓判を押す名湯でもある。夜の露天風呂からは、光害の少ない場所特有の降るような星空が眺められる。

その高瀬館の主人の愛車はサバイバルトレイルの最高峰のひとつであるジープ『ラングラー』のブラックボディ。ハスラーと見比べるとまるで親子亀のようなイメージなのだが、デザイン自体はラングラーと並べても意外に負けておらず、クロスカントリーイメージが上手く表現されているのだなと思った次第だった。

ワゴンRゆずりのユーティリティの高さも魅力だ。今回は単独行だったが、荷物が少なければ4人ドライブも十分に許容できる空間が確保されている。リアシートはおひとりさまドライブが申し訳ないくらい広く、シートを前方いっぱいにスライドさせて荷室を最大にしても、足元空間は大型サルーン並みのゆとりであった。また、リアシートのヒップポイントがフロントシートに対してかなり高く、後席からも十分に眺望を楽しめるのも美点のひとつだろう。使い勝手ばかりでなく、カジュアルな加飾も好感が持てるポイントだ。


◆サスストロークを生かし切るセッティング

次にドライブフィール。スズキ関係者によれば「ワゴンRに比べて、より長距離ツーリングを意識した足回りに仕立てた」とのことだが、600km超のドライブをこなしてみて、その意図するところは十分に実感できた。ピッチング(前後方向の揺れ)を抑えたフラット感重視のセッティングで、軽自動車ながらSUVテイストは結構出ていた。

軽自動車の限られたストロークをたっぷり使う代償として、ハンドリングはアンダーステアが強め。だが、スタッドレスタイヤであることを考慮すると標準レベルは十分クリアしており、また爆走しなくても楽しい気分にさせられるキャラクターということもあってか、短所という印象は薄かった。

室内の快適性はタウンスピード~地方道クルーズのような速度レンジでは十分に高い。スタッドレスタイヤを装着していてもロードノイズはとても小さく、エンジン音の室内への透過もよく抑えられていた。不整路面や圧雪路での突き上げの処理も悪くない。

それに対して高速巡航は、軽トールワゴンの宿命でもあるが、相対的に苦手だ。80km/hあたりで風切音が次第に高まり、100km/h巡航では結構騒々しい。乗り心地もストロークを使い切るセッティングが裏目に出るところで、路面の良い長野自動車道ではフラット感は維持されたが、アンジュレーション(おおきなうねり)の大きな中央自動車道では車体の揺動の収まりは良くない。

その弱点を救っているのがハスラーのクロスオーバーSUVというキャラクターだ。もともとオフロード志向のSUVはゆったりとバウンスしながら走るもの。収まりの悪さもかえってハスラーの持ち味のような気がしてくる。クルマづくりで“アバタもエクボ”感を出すのはクルマの開発における永遠のテーマのひとつで、とても難しいこと。それをある程度やりおおせたスズキの開発陣の苦労がしのばれるところだった。

ドライブ中、難ありと感じられたのは、スマホ連動タイプのカーナビの位置測定精度と操作性。山岳路では自車位置を見失うことしばしばで、後立山連峰の山中をドライブしているときは、3000m級の山を縦走しているような笑える表示も。また、市街地でも大通りの隣の街路を走っているような誤測位が複数回みられた。スマホと操作ロジックを合わせたタッチパネルの操作性もかなりの慣れが必要で、誤操作→リターンの繰り返しのまま試乗を終えることになった。


◆650kmロングツーリングの実燃費は21.93km/リットル

さて、次は軽自動車に要求される経済性。試乗車は車両重量が870kgで、AWDの駆動系の抵抗とあわせて660ccエンジンでは少しオーバーロード気味。さらに転がり抵抗の低い省燃費タイヤではなく、スタッドレスタイヤ装着。試乗コースは高速や信号の少ない地方道主体である一方、標高差が大きく圧雪、凍結あり、気温も最も低いときにはマイナス10度というアゲインストも少なくなかった。

その条件でドライブするなか、給油を3回行ってみた。最初の区間はスタートから高速巡航、霧ヶ峰の最高地点への登坂、山岳路などを含みつつ、長野市までの405.3km。先に高速巡航が弱点と述べたが、それは燃費も同様で、瞬間燃費計の動きを見ていると80km/h巡航では20km/リットルのラインを何とかキープできるものの、100km/h巡航では平均して20km/リットルを大きく割り込んだ。ちなみに100km/h巡航時のエンジン回転数は約2200rpm。

一方、高所への登坂時のエネルギー効率は悪くない。登坂前と平地に降りた後の燃費の差分はほとんどなく、昔の軽ターボのように上り勾配で過剰にガソリンを使うようなイメージはなかった。そのことから、高速で燃費が落ちるのはターボエンジンが高トルクを発揮させたときの熱効率低下ではなく、空力が主因であったのではないかと推察される。405.3km走行後の給油量は19.56リットルで、燃費は20.72km/リットルとなった。

次の区間は長野から埼玉県の行田までの、交通量の少ない地方道176.8km。長野と軽井沢の間の上田近辺に大きなアップダウンがあるが、燃費は伸ばしやすい環境だった。その頃になると、軽自動車用のターボエンジンとジヤトコ製の副変速機付きCVTがどう同調すれば燃費を伸ばせるか、だんだんかコツがつかめてきたこともあって、明らかに平均燃費は高止まりするようになった。平均車速30km/hを超える快適なクルーズをこなした後の給油量は7.56リットル。平均燃費は23.38km/リットルであった。

最後に行田から国道17号線および東北道沿いの国道122号線を通って葛飾までの帰路63.8km。途中若干の混雑があり、休憩なしで走って平均車速23.6km/hと最も速度の遅いドライブとなったが、燃費スコアはこの区間が最良であった。給油量は2.42リットルで、燃費は26.36km/リットル。距離が短いため、クルマが揺すられてエア抜けするぶん満タン法では不利ではないかと思われたのだが、結果は真逆になった。

最後の区間の燃費が良かった理由はハスラーの運転のコツがつかめてきたことばかりではない。市街地走行ではトップスピードがせいぜい50km、遅いところだと30km程度でトロトロ走ることになるが、瞬間燃費計を観察する限り、速度の上がる高速道路や地方道より低速で走ったほうがはるかに燃費がいい。

これは同じCVTを搭載する『スイフト』デュアルジェットや三菱自動車『ミラージュ』にも通ずることで、変速レンジの広さを生かし、クルーズ時に極端にハイギアードとすることでエンジンブレーキによる失速を防ぐというセッティングが公道での実走行燃費の向上に効果があるという思想がかいま見られた。

今回のツーリングのオーバーオール燃費は21.93km/リットルと、まずまずの数値。なお面白いことに、すべての区間で平均燃費計の数値を実燃費が上回った。表示燃費のほうが過大となるのが一般的であるなか、ちょっと珍しい現象である。


◆ファッショナブルでスペーシー、ツーリング耐性も高い

さて、最後に600km以上の長距離ドライブ時の身体への攻撃性。これは軽自動車としては十分以上に高いレベルにあった。シート座面の体圧分散設計が良好であったのに加え、身長170cm弱の筆者が座っても、シートバックが両肩の骨よりはるか上までカバーするたっぷりとした大きさを持っており、コーナリングや加速時に体を自分で支える必要がなかったことも、疲労低減に寄与したものと考えられる。昨年秋に乗った同社の『スイフト』には及ばないが、大抵の行楽ドライブではハスラーに不足を感じることはないであろう。

ファッショナブルでスペーシー、ツーリング耐性も高いハスラー。ターボ+AWD、2トーンルーフ塗装というトップグレードでも価格は161万8050円。試乗後半まで車両価格を見ておらず、スズキのことだからこれでも180万円くらいで買えるんだろうなと思いきや、その想像より20万円も安かったのは正直、衝撃的だった。最も安価な自然吸気エンジン+FWD(前輪駆動)「A」ならMT、CVTとも104万8950円。もっと付加価値を見込んでもいいくらいの出来のモデルを激安で売るあたりに、スズキの意地が感じられる。このてんこ盛りぶりで売れないほうがどうかしているというのが、試乗後の感想であった。

もっとも、乗用車ベースのお洒落軽クロスオーバーSUVは、作ろうと思えば他の軽メーカーもそれほど長い開発期間をかけずに作ることは可能だ。ハスラーがスマッシュヒットとなった以上、ライバルも魅力的なモデルを投入してくることは必定。今後、ファッショナブル軽が新たな激戦の場となるであろうことは、カスタマーにとっては選ぶ楽しみが増えることを意味する。今後の展開は要注目である。
《井元康一郎》

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