【マツダ アクセラ 試乗】シリーズ中ベストバランスの2リットル、ゴルフと真正面から戦える…井元康一郎

試乗記 国産車
マツダ 新型 アクセラ(参考画像)
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  • マツダ・アクセラ 20SツーリングLパッケージ
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  • マツダ・アクセラ

昨年11月に第3世代モデルに切り替わったマツダの世界戦略車『アクセラ』。5ドアハッチバック「スポーツ」の1.5リットル+6速MT、2リットル+6速AT、セダンのハイブリッドの3車種に横浜港湾地区で試乗する機会があった。

◆アテンザ2リットルより120kg軽量のアクセラ2リットルは「下克上の仕上がりぶり」

2番めに乗ったのは、2リットルDOHC+6速ATモデル。パワートレインはDセグメントに属する上位モデル『アテンザ』の2リットルモデルと共通で、最高出力155馬力、最大トルク20kgmというエンジンスペック、6速ATの変速比および最終減速比とも同一。異なるのはタイヤ外径が数%小さいことくらいである。車重はアテンザより120kg、大人2人分ほど軽い。

この2リットル仕様、今のところアクセラシリーズのなかでブッチギリのベストバランスのモデルであると思われた。アテンザの2リットルに比べて車重が軽いぶん、動力性能が軽快であることは予想できたが、そればかりでなくATのスムーズさ、静粛性の高さ、そして何より乗り心地など、様々な点について、アテンザ2リットルに対して完全に下克上という仕上がりぶりだった。

◆ハイレベルなシャシーと足回りのチューニング

アクセラ2リットルの最大の美点はシャーシチューニングのレベルの高さであろう。タイヤの変形、ブッシュのたわみ、ショックアブゾーバーの上下動、ストラットアッパーマウントラバーなど、特性のまったく異なる部品を一つの動きにまとめあげていくチューニング作業はクルマの乗り味を良くするための要ともいえるもの。アテンザ2リットルに関して、マツダの実験部隊はその味付けをよほど徹底的に行ったものと推測される。その良さは漠然としたものではなく、国内外の多くのクルマを乗り比べたことのある人であれば、誰でも違いを体感できるレベルだ。

たとえば高速道路の床板の継ぎ目や舗装の補修跡など鋭い突起物を踏んだ時のサスペンションのスムーズかつハイレスポンスな上下動。世界の自動車メーカーの実験部隊のスタッフがこぞって目標にしているのはフォルクスワーゲンのモデル。Cセグメントであれば『ゴルフ』、Dセグメントでは『パサート』。「シャーシの振動のコントロールは森羅万象の世界です。体感目標が決まっていても、方法論がわかっているわけではない。フォルクスワーゲンの領域に近づくことすら至難の業」(自動車メーカー関係者)という。

その路面のうねりや突起のいなしに苦しんでいたのはマツダのエンジニアも同様。昨年1月、アテンザの試乗会で実験担当者の一人は「とても困難だし、まだやりきれていないこと、知らなければいけないことがたくさんある。しかし、マツダのクルマに高い付加価値を認めてもらえるようになるために、これからも徹底的に頑張る」と語っていた。

それからわずか1年しか経っていないのだが、新型アクセラ2リットルの足回りは、早くも何かをつかんだようなテイストに仕上がっていた。1.5リットルの60扁平タイプに比べてクッションストロークの非常に小さな215/45R18タイヤを履いているのだが、市街地や首都高速道路横浜線を走っている時に大きめのギャップを乗り越えても、ゴンという音とともに丸まった突き上げが伝わってきて、その直後に振動がピタッと収まるという振動減衰は見事なもの。いわゆる“固いのに滑らか”というテイストだ。

2012年秋にプライベートで欧州を4000kmほどドライブしたのだが、その時に乗ったクルマのうち、フォード『C-MAX』に対してはすでに圧勝レベルで、自動車メーカーの開発部門で受けの良いシトロエン『C4』と比べても、ボディの大きな揺動をふわりと受け止めるように収束する動きではやや負けるが、ガタンとアッパーマウントが大きく動くような路面の突起を踏んだ時の抑えこみではアクセラ2リットルが勝っていると思われた。グローバルでのベンチマークモデルとなっている現行型ゴルフに対しても、負けている部分もあるが勝っている部分もあり、そうそう引けを取るものではないと感じられた。このように、クルマの“素”の部分で欧州同クラスのトップモデルに引けを取っていないと感じられるクルマに乗ったのは、スズキ『スイフト』(のデュアルインジェクションモデル)以来である。

今回のアクセラ2リットルの試乗時間は1時間と短く、それらの振動特性が長く乗った時にどのように体に響いてくるかといったことは体感できていない。が、少なくとも1時間程度のドライブでは、この後急速に欠点が目立ち始めるのではないかといった兆候はなかった。1.5リットルにもこの足回りをオプショナル設定すれば、モノのわかったユーザーに対してマツダのブランドイメージを上げるのに貢献するかもしれない。

◆ダイレクトなフィールのスカイアクティブATも熟成度高し

次にパワートレイン。エンジンは強烈にパワフルというわけではないが、全長4460mmと、Cセグメントハッチとしては大柄なボディを軽やかに走らせるだけの能力を持ち合わせている。横浜ベイブリッジの上り坂など負荷が高まる高速クルーズでも、速度をぴたっと一定に保つのに何の気遣いも必要ないくらいに煮詰められたスロットルプログラムも良い出来栄えであった。

変速機は発進や微低速時以外、ロックアップしたまま遊星ギアの経路を内部クラッチで切り替えるというスカイアクティブATだが、これもアテンザに比べて熟成度が格段に高まったように感じられた。変速の素早さ、ダイレクト感は欧州車で採用が広がっているDCTの最新タイプと比べても遜色ない。DCTも近年、劇的に技術革新が進んでいるが、信頼性はこのATのほうが上であろう。パドルシフトを用いたマニュアルモードのレスポンスも秀逸で、シフトチェンジが楽しくなるくらいだった。80km/h時から計算した100km/h巡航時のエンジン回転数は約2000rpm。

1名乗車、ホットスタート、エアコンOFF、市街地と首都高速を合わせて平均車速27km/hという条件で1時間弱を走ったさいの燃費計の表示は16.2km/リットルと、JC08モード値19km/リットルには及ばなかったものの、このクラスとしては上々のスコアといえるだろう。

◆ライバルはドイツ勢ではゴルフ、国産ではインプレッサ

シリーズ中、ベストバランスと判じられるこのアクセラ2リットルの最大のライバルは何と言ってもゴルフ7、そのなかでも4輪独立サスペンションを備える1.4リットルの「ハイライン」であろう。アクセラにアドバンテージがあるのは荒れた路面での衝撃の押さえ込み、極小レベルの風切り音、ヘッドアップディスプレイをはじめとする近未来的なハイテク装備、クルマに合わせた音場チューニングがなかなかの決まりぶりを見せるBOSE社のオーディオシステムなど。ゴルフが勝っているのは驚異的なロードノイズの小ささ、エンジン音の遮断、シートやステアリングのタッチ、高速道路の大きなうねりを乗り越えても進路の乱れや余計な揺れが残らないクルーズ感などだ。

日本車最大の競合相手は、衝突軽減ブレーキでブランドイメージを大いに上げたスバルの『インプレッサ』。ヨーロッパ車的な走り味ではアクセラに軍配が上がるが、インプレッサはまた別の意味で味わい深い走行フィールを持っており、こちらもユーザーにとっては悩ましい選択であろう。ともあれ、日本市場では話題の盛り上がりが本当に少ないCセグメントに思わぬ大穴登場である。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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