【中田徹の沸騰アジア】揺れる豪州自動車産業、GMなどが生産撤退へ

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昨年末、クリスマスムードに包まれた真夏のオーストラリアに行った。太陽光溢れるビーチで遊び、夜毎のBBQパーティーを満喫した。早めの冬休みを取って友人が住むビーチリゾートの街を訪れたのだけれど、現地のテレビ・ラジオ・新聞などから漏れ聞こえてくるオーストラリア自動車産業の行方がやはり気になってしまった。

GMが豪州生産撤退へ

2013年12月11日、ゼネラルモーターズ(GM)がオーストラリアでの車両・エンジンの製造を2017年末までに終了すると発表。製造コストが高いことに加えて内需市場が100万台強と小さいため採算が合わない状況が続いてきた、と言われる。豪ドル高の進行も少なからず影響している。GMの現地子会社ホールデンはサウスオーストラリア州、ヴィクトリア州に工場を持つが、2,900人の雇用に影響する見通しである。

GMの豪州生産撤退が明らかになる6日前の12月5日。GMは欧州での『シボレー』ブランドの販売を2015年末で終了すると発表している。不振のシボレーから撤退し、『オペル』に経営資源を集中させる考えだ。

欧州で販売されているシボレーの多くは韓国製だが、これによってGMの韓国子会社は欧州向け輸出を減らすことになる。

シボレーの欧州撤退が発表されたのと同じ日、韓国とオーストラリアの間で自由貿易協定(FTA)交渉が妥結に至ったことが明らかとなった。2015年1月の発効と同時にオーストラリアは韓国製自動車の輸入関税5%を撤廃する予定だ。韓国GMは今後、関税撤廃の恩恵が受けられる豪州向け輸出を増やすことで欧州向け輸出の減少をカバーすると考えられ、欧州・アジア・豪州の製販体制が再編される。

自動車産業の存亡は政治次第

以前は、トヨタ、三菱自、GM、フォードの4社がオーストラリアで車両生産を行っていた。しかし、2008年に三菱自が現地生産を終了。フォードは、2016年10月に現地工場を閉鎖する、と2013年5月に発表したばかりだ。GMの生産撤退を受けて、残るトヨタの動向に注目が集まる。オーストラリア国内の自動車減産により部品メーカーの経営存続が危ぶまれるが、このこともトヨタが製造事業を継続する上での障害になりうる。

オーストラリア自動車産業の存続は政治次第、という状況である。オーストラリア政府はトヨタの生産継続を期待している一方で、政府補助金の支給額拡大につながる可能性があるため政権内でも意見が分かれているようだ。筆者が見かけた現地紙の経済面には、“A氏:自動車メーカーがいなくなるって?” “B氏:好調な産業が他にあるから大丈夫!”という主旨の風刺画が掲載されていた。好調な産業とは資源、農業、教育らしい。自動車製造業に固執する考えはあまりないのかもしれない。

”ホールデンはオーストラリアにとどまる”

自動車生産に関わる企業の多くはヴィクトリア州などの南東部に工場を置く。一方で北東部には世界的はダイビングスポットや有名なビーチリゾートが点在しており、主力産業は観光である。ゴールドコーストに住む筆者の友人の周囲では自動車メーカーの工場撤退の影響で職を失ったり給料が減ったりする人はいないようだ。

友人家族のガレージには、国産車のホールデン『コモドア』とフォード『ファルコン』、輸入車のVW『ゴルフ』と現代『i30』などが並ぶ。1人1台を所有しており、クルマの無い生活は考えられない、と話す。オーストラリア製でも韓国製でも関係ない、とも話す。ビーチに向かうクルマの室内、ラジオ番組のコマーシャルが”Holden is here to stay.(ホールデンはオーストラリアにとどまる)”と訴えるが、コモドアのハンドルを握る友人は、補修部品がちゃんと手に入るなら問題は無い、と興味なさそうに言った。

《中田徹》

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