【インタビュー】アウトランダーPHEVは三菱EV開発の集大成…三菱自動車 EV・パワートレインシステム技術部 半田和功氏

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三菱自動車工業 EV・パワートレインシステム技術部の半田和功氏
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電池の不良というリコールのために生産停止になっていた、三菱自動車の『アウントランダーPHEV』の生産が再開された。この機会に、これまでの開発経緯と関係者の話を交えつつ、アウトランダーPHEVがどんなメカニズムを持ったハイブリッドカーなのかを紹介したい。

アウトランダーPHEVを解説する前に、これまでの三菱自動車におけるハイブリッド技術の開発について述べる必要がある。というのは、技術というものは一朝一夕に完成するものではなく、長い年月がかかるからだ。

◆ハイブリッドに長年取り組んできた三菱開発陣

三菱自動車がハイブリッド技術の開発を始めたのは1990年以前であり、その成果は1993年の東京モーターショーにおいてコンセプトカー『ESR(エコロジカル・サイエンス・リサーチ)』として発表された。当時、私はそのコンセプトカーを取材し、記事にした記憶がある。それはシャリオのプラットフォームをベースに開発された、シリーズハイブリッドカーであった。このコンセプトカーにはバブル時代に相応しく、当時考えられた全ての機構が採用されており、三菱自動車の力作といえるものであった。

発電専用の横置き高膨張比サイクル(遅閉じミラーサイクル)1.5リットルの4気筒エンジンを車体後部に搭載し、2500rpmの一定回転で発電機を駆動し、駆動専用のモーターで前輪を駆動するという、いわばRF(リアエンジン・フロントドライブ)車であった。低燃費化のために導入された第1の技術は、徹底したエンジンの熱効率向上であった。このため、MVV(三菱バーティカル・ボルテックス)と高膨張サイクルとダブルイグニッションを組み合わせていた。

その上で、2基に分けた発電機を負荷に応じて使い分け、さらに排気ガス駆動の第3の発電機をも備えていた。言い換えると、燃焼ガスのエネルギーをレシプロとタービンの2段階に分けて動力に変換していたのだ。

◆ESRの流れをくむアウトランダーPHEV

前置きが長くなってしまった。ESRに採用された技術はまだまだあるが、そろそろアウトランダーPHEVの解説に移ることにする。アウトランダーPHEVも基本的にはESRと同じシリーズハイブリッドカーである。が、EVモードやシリーズモードに加えてパラレルモードもあるという点でESRとは大きく異なる。

この3つの走行モードを可能にするのが、発電機とエンジンと多板クラッチとファイナルドライブとモーターからなる駆動装置である。ちなみに、他社のPHVとは異なって変速機はない。クラッチがエンジンとファイナルドライブの間にあるため、クラッチを切ってモーターのみで駆動するのが「EVモード」。クラッチを切ったままで、エンジンで発電機を駆動し、その電力をモーターに供給するのが「シリーズモード」。クラッチを接続して、エンジンとモーターで車輪を駆動するのが「パラレルモード」である。

この駆動装置を最初に見た時は、非常に複雑な駆動装置と思ったが、よく見ると単純で理解しやすい駆動装置であった。駆動装置に中にクラッチがあることでその断接の制御が心配になる。

しかし、三菱自動車工業 EV・パワートレインシステム技術部の半田和功氏は、「実はそれほど難しいことではありません」とこともなげに言う。というのも、「駆動モーターの出力に余裕があり、エンジンのアシストを急ぐ必要がありませんから」(半田氏)。

「急ぐ必要がありませんから、クラッチを時間をかけて接続でき、接続時のショックを小さくすることができます。クラッチの接続時にはまずエンジンを始動し、エンジンの回転数を合わせるのですが、それに時間をかければクラッチ接続ショックを小さくできるのです」(半田氏)。全開加速でもクラッチの接続に1秒程度の時間をかけることができるという。

◆コストダウンのための創意工夫

アウトランダーPHEVの駆動装置のもう一つの特徴は、4輪駆動であることだ。つまり、後輪側にも駆動用モーターがあり、プロペラシャフトの無い4輪駆動である。「駆動するための電力は発電機と電池から供給され、モーターを制御するインバーターは前後に合計2個あります。そこで、前後の重量配分に応じた駆動力配分が可能となっています」(半田氏)。

言い換えると、前後輪の駆動力は前後のモーターを制御することで配分される。直進走行では、前後輪の回転数は同一に制御され、旋回時には旋回半径に合わせて前輪の回転数が速くなる。半田氏によると、「前後輪の回転数制御はなく、前後のモーターのトルクを制御することで、前後輪の回転数が自動的に決まる。車輪の駆動力はモーターのトルクに比例しますから、モータートルクを制御すれば前後の駆動力配分が決まるのです」。

エンジンとモーターと大容量の電池を搭載するPHEVは、それなりのコストがかかる。が、販売を考慮するとリーズナブルな価格を設定しなければならない。そこで、アウトランダーPHEVには、車両各部でコストダウンを実施している。その一つがリアモーターである。「i-MiEVの駆動ユニットとほぼ同じものを使っており、定格出力/最高出力も同じ25kw/60kw。冷却方式も踏襲していまして、水冷です」(半田氏)という。

一方、フロントモーターは専用開発である。「前輪側ではスペースの都合上モーターの小型化が求められる関係で、小径のモーターを採用しています。そのままではリアモーターと同じ定格出力/最高出力が得られないので高回転化しました」。最大トルクは、リアモーターの195Nmに対して137Nmとトルクの低下が少ないのはモーターを長くしたからだ。冷却方式も専用となりこちらは油冷だ。

◆PHEV用に専用チューンが施された2リットルエンジン

2リットルの4気筒エンジンも比較的低コストのものが選ばれた。それは、連続可変のバルブタイミング機構付きの4バルブDOHCエンジンである。前出のESRとは異なって、エンジン回転数は車速に応じて変化する。が、エンジンの運転状態は常に全負荷であり、低負荷運転に伴う吸気損失を除外している。従って、吸気バルブのリフトで負荷を調節する機構は不要であり、新MiVECは使われていない。また、ESRのような高膨張比サイクルは採用していない。

エンジンの最高出力と最大トルクは87kw/4500回転と186Nm/4500回転であり、最高出力回転数と最大トルク回転数が一致する。これも、シリーズハイブリッド用エンジンの特徴である。エンジンを使うのは高速域だけであるから、このような出力及びトルク特性が低燃費化に貢献するのだ。ちなみに、エンジンの最高出力は前後のモーターの最高出力の合計(120kw)より小さい。これは、アウトランダーPHEVがシリーズ/パラレル方式のプリウスPHVより電気自動車に近いことを意味している。

◆本格的なレンジエクステンダーEV

エンジンを搭載していても、走行性能を最終的に決めるのは電池だ。そこで、アウトランダーPHEVは12kwhの大容量リチウムイオン電池を床下に抱えている。この容量はi-MiEVの16kwhに近い値だ。この大容量電池によって、アウトランダーPHEVは電池の電力だけで60.2km走行できる。この航続距離は日常の買い物だけではなく通勤にも使えそうな数字だ。言い換えると、買い物などの近距離使用のみではガソリンを全く消費しない。そこで、エンジンが新品のままで廃車となりかねない。だから、たまにはエンジン走行するべきである。

既に述べたように、アウトランダーPHEVの電池は、マンガン酸リチウムを正極に使うリチウムイオン電池である。このタイプのリチウムイオン電池は安全性が高く、日本メーカーの全てがこのタイプの電池をPHEVやEVに使用している。が、電池メーカーによって内部構造やパッケージが異なる。「アウトランダーPHEVの電池は、8個のセルを直列に繋いだパッケージを10個搭載しています」(半田氏)。そこで総電圧は、3.75ボルト×8×10=300ボルトとなる。EVのi-MiEVのそれは330ボルトであるから、やや低い電圧だ。他社のPHEVの総電圧は、プリウスPHVが207.2ボルト、アコードPHVが320ボルトである。なお、プリウスPHVの電圧が低いのは昇圧装置を使っているからだ。

以上が、三菱アウトランダーPHEVの概要である。エンジンも搭載するPHEVはEVと同程度にクリーンであり、一方で電池の残量を心配する必要はない。言わば、レンジエクステンダーEVに限りなく近いハイブリッドカーだ。アウトランダーPHEVでは、プリウスPHVと比べて倍以上の大容量電池を搭載し、SUVとしての走破性・居住性を保ちつつ、よりEVとしての使い勝手を高めている。半田氏は「当社これまでやってきたEV開発の集大成」と胸を張るが、そう言えるだけの技術とノウハウがアウトランダーPHEVには凝縮されている。

《熊野学》

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