今年10月に開催を控える「国際 R-M ベストペインターコンテスト 2013」。日本からは一昨年の全国大会で選出された新和自動車(東広島市)の菅原健二さんが代表として出場する。
フランスで行われる世界大会に向けて、この度BASFジャパンと新和自動車の面々による座談会が行われた。参加したのは、BASFからオートモーティブリフィニッシュ部ディビジョンヘッドの久保田克彦氏、新和自動車の菊地等社長、梨和誠工場長、そして菅原健二さんの4名。水性塗料導入のきっかけから、ベストペインターコンテスト出場の経緯、世界大会への意気込みまでを語った。
新設備導入の一環として水性塗料も
菊地社長:当社では、数年前からBASFの自動車補修用水性塗料「オニキスHD」を導入しています。20年以上前から水性塗料が主流の欧米へ研修に行っていたため、私にとっては目新しいものではありませんでした。いずれは日本でも導入が進むだろうと感じていましたが、きっかけがなかったのです。しかし、数年前にホンダボディサービス栃木さんに見学へ行った際に決意しました。加えて当社では塗料や機械等、常に新しい設備を進んで導入するという方針があります。
久保田氏:梨和さんはその頃に工場の管轄を任されたと思いますが、当時はどう感じられましたか。
梨和工場長:それまで水性塗料の使用というのは頭になかったので、まずは考え方の切り替えから始めました。実際の対応性も分からず、やはり最初は不安がありました。
久保田氏:現場の菅原さんはどういった思いでしたか。
菅原さん:まだ経験が浅かったので、溶剤塗料でも自信がある方ではありませんでした。水性塗料にチャレンジするなかで、それが技術不足なのか水性の特徴なのか、分かりませんでした。でもやらなければならないとは考えていました。
久保田氏:新しい塗料を扱う時、ベテランの人はかえってその経験値がボトルネックになってしまうケースもあります。菅原さんが抵抗なく何でも取り込もうという姿勢でいてくれたのは良かったですね。
安全と環境の為に水性導入は必要
菅原さん:水性塗料は、人体への悪影響や大気汚染を引き起こすVOCの排出削減に貢献する、というメリットがありますが、工場内での実感として、匂いが違います。社長から、歳を取って溶剤塗料を使用してきた負荷が体に現れる、という話も聞いているので、将来を見据えて自分の体を守ることは重要だと感じます。
梨和工場長:ひと昔前は今ほど作業環境が管理されていなかったので、その中で溶剤塗料を使用するのは作業者にも、環境にもダメージがあったと思います。今、表面化していないからといって安心はできません。
菅原さん:新車には水性塗料が採用されていることが多いので、再現性も安全性も高いものを使用するのは理にかなっていると思います。
技術力向上、業界認知へ…競技大会
久保田氏:水性塗料を導入してもらうと共に、技術も高めていただくため、BASFはグローバルで、自動車補修用塗料のペインターを集めたコンテストを開催しています。
菊地社長:日常の業務ではどうしても金銭面に偏った考えになりがちですが、この様な機会があるのは楽しみです。私は二十歳前の頃「技能オリンピック」に出場していますが、この業界ではとても珍しいことでした。その時にベストを尽くせなかった後悔は今でも残っています。だから、菅原には全力で戦ってくるようにと言っています。本人の技術も向上するでしょうし、今後若い社員たちが出場を目標にしてくれれば更に嬉しいですね。
久保田氏:こういう競技会が板金塗装業界では珍しいということですが、フランスでの世界大会は非常に盛大に行われます。車の修理には高度な技術が必要ですが、なかなか表に出る機会がない。ボディショップの方にスポットライトが当たるようなイベントが必要だと感じ、2009年から日本でも開催するようになりました。
菊地社長:水性塗料はペインターの技術力を比べる機会が少ないので、大会に出場し、過去のチャンピオンや他のボディショップの方と関わることで、到達すべきレベルが見えてくると思います。人を育てる基準を把握するためにも良い機会です。
久保田氏:そうですね。それから、競技大会だと項目ごとに評価をするので、技術を磨きやすいという点はあると思います。一つ一つを上達させることで全体が向上するのではないでしょうか。
菅原さん:普段はとにかく失敗をしない、納期に間に合わせるというやり方をしていたのですが、大会後は何が原因で失敗したのかが明確にわかるようになりました。
ペインターコンテスト出場による社内外の変化
久保田氏:ペインターコンテスト出場のお誘いをした時、どのように思われたか教えてください。菅原さんが選ばれたのはやはり期待の若手だからでしょうか。
梨和工場長:話をいただいた時はまだ導入して間もない頃でしたし、勝ち抜いて全国から世界へというイメージが全く湧いていませんでした。
健二(菅原さん)を選んだのは全国大会出場の条件が30歳以下ということで、せっかく出るのであれば世界を目指してやるべきだと思ったのと、人一倍探究心のある彼がやる気を持って手を挙げてくれたからです。
久保田氏:日常業務における姿勢の変化や、社内の同僚に対する相乗効果などもあったのでしょうか。
菅原さん:以前とは大きく変わっています。塗装作業だけでなくて、調色の段階から集中するようになりました。より精度の高い仕上がりを意識しています。
梨和工場長:僕から見ていても短期間ですが意識と技術面に変化があったと思いますし、社内全体のレベルも自然に上がってきたと感じています。
久保田氏:菅原さんの活躍には社長も驚かれたと思いますが、会社としては周囲からどのような反応を受けているのでしょうか。
菊地社長:地元の番組で「自動車塗装で世界に挑む」というテーマで取り上げてもらったり、先日は(菅原の出身地である)呉市長への表敬訪問にも行ってきました。板金塗装というマイナーな職業に光が当たるのは非常に嬉しいことです。
梨和工場長:世界大会に出場が決まってからは一層注目を浴びるようになりました。これほどまでに影響力があるのかと驚いています。
この職業を目指す若者たちに良い影響を
久保田氏:菅原さんがペインターコンテストで努力される姿は、将来、同じ職業を目指す若者にとって希望や刺激になると思います。日々の取り組みに対する心得や世界大会に出場する意気込みを聞かせて下さい。
菅原さん:仕事は真剣に取り組めば、形になると思います。また、今回のコンテストもそうですが、自分が強く思って努力すれば、結果は付いてくると思っています。
菊地社長:3K(きつい、汚い、危険)の代表のような職業ですが、これから入ってくる若者たちのために設備や給与面の環境を整えたいと思っています。まず、当社においては、“家業”ではなく、“企業”の形をとっていく。そして社員が家族をしっかり養える環境を作っていくこと。業界全体としても働いている人間が安心できる、魅力ある業界にしたいですね。
久保田氏:我々は、定期的に情報交換ができるような業界、ボディショップ、ペインターのコミュニティを作りたいとも考えています。人材育成のプログラムも確立しなければなりません。菅原さんもすぐに後輩が入ってきて、中堅になるでしょう。経験者が若手にアドバイスできるような場所を提供していくので、ぜひ参加してください。
菅原さん:そういう機会があれば参加したいと思います。世界大会出場には、社内はもちろん、地元の方や全国大会で関わったペインターの皆さんのサポートと激励がありました。日本代表として後悔のないよう全力を尽くし、良い結果を持ち帰ります。