【三菱 アウトランダーPHEV 試乗】バッテリートラブルの解決、不可能ではない…家村浩明

試乗記 国産車
三菱・アウトランダー PHEV
  • 三菱・アウトランダー PHEV
  • 三菱・アウトランダー PHEV
  • 三菱・アウトランダー PHEV
  • 三菱・アウトランダー PHEV
  • 三菱・アウトランダー PHEV
  • 三菱・アウトランダー PHEV
  • 三菱・アウトランダー PHEV
  • 三菱・アウトランダー PHEV

3月27日にニュースが飛び込んできた。『アウトランダーPHEV』に搭載されているバッテリーにトラブルが発生し、生産を一時停止するという内容だ。

この件について、3月28日に同社広報部に電話取材を試みたので、以下、そのメモを再録する。

まず“トラブル”の状況だが、工場(メーカー)から販売店に送られたアウトランダーPHEVが、納車整備を行なうためにバッテリーに「フル充電」を行なった。その後、一晩おいた翌日に、クルマを動かそうと、システムをオンにしても「READY」にならない?そのため車体をチェックしたところ、下回りから異臭がして、バッテリーを包んでいるパックの一部が(熱で)溶けていた。こういうトラブルが一件あった。

バッテリーの製造元であるリチウム・エナジー・ジャパンに、その該当の部品を戻し解析したところ、バッテリーの一部のシェルがショートし、そこから発熱していた模様。その原因はただいま究明中で、何とかこの1~2週間のうちに問題点を明らかにしたい。そして、その間は、PHEVの生産・出荷・登録はしない(停止する)ことを決定した。

すでに納車されて使用中のクルマとそのユーザーの方々には、
・プラグインによる充電はしないでほしい。
・チャージ・モードによる充電もしないでほしい。

以上の二点をお願いしている。

今回の件は、バッテリーを「充電」した際のトラブルなので、原因が解明されるまでは、電池に対して、外部(システム以外)からの充電は避けてほしいということ。

車上のハイブリッド・システムで、バッテリーに電気が流れる分にはとくに問題はないので、今回の“バッテリー・トラブル”によって、すでに稼働中のクルマが走行不能になっているということではない。

また、バッテリーパックの検査工程で、バッテリーが発煙し、発火にまで至ったというのは、EVであるi-MiEVに搭載するためのバッテリーで一件起きている。このバッテリーと、アウトランダーに搭載するためのバッテリーは、製造者であるリチウム・エナジー・ジャパンでは、別ラインで製造されているものであるので、三菱自動車としては、この二つの“トラブル”は「別案件」であると考えている。

以上が、取材メモである。

ちなみに、工場からの出荷時には、バッテリーのフル充電はすべてのクルマ(生産されたモデル)には行なわず、ディーラーの整備段階で、納車整備の一環としてバッテリーへのフル充電は行なうというのが通例であるとのこと。

……なるほど、たしかにバッテリーのトラブルではあるが、少なくとも以上の取材では、今回の件が、アウトランダーPHEVの“存続”に関わるような問題になるとは考えにくい。

状況からは、外部からの(プラグインでの)充電時に“何か”がありそうだが、ここまで問題点が限定されているなら、同社・広報部がコメントするように、今後数週間での“解決”は不可能ではないとも思われる。今後の同社からのニュースを期待して待ちたい。

どんな格好をしていても、それを「乗用車」として使ってしまう。

こういう柔軟な志向と傾向がこの国のマーケットに生まれて久しい。おそらく、この潮流は遠く1980年代後半に溯ることができ、当時のヒット作であった三菱『パジェロ』が、泥の汚れがまったく付くことがないと揶揄されたけれど、そもそも、オフロード走行をするためにパジェロが買われたのではなかった。

セダンとかクーペとか、そうした既存のジャンルに分類されないタイプの自動車で、何か、日常使用に使えるものはないのか?クルマに対して、こういう“成熟”状況にあったとき、浮上したモデルのひとつがオフローダーのパジェロだったのだ(当時、まだ「SUV」という用語はなかった)。

そして、こうした「セダン以外」に乗りたいという志向が、1990年代後半以降のミニバン・ブームにつながって、さらにそれが「クロスオーバー」にまで至り、わが国の今日の状況になっている。こういう見方と解釈は、おそらくハズれてはいないはずだ。

…というわけで、アウトランダーである。当然、メーカーも現在のそういう状況と傾向は熟知しており、都市派のSUVという雰囲気を濃厚に醸し出して、シティ&乗用ユースをむしろメインに、このモデルは登場した。

ただ、実際に市街地などを試乗してみると、標準仕様のアウトランダーは、ややイマイチの部分がなきにしもあらず。それはクルマの上下方向での動きで、とくに、ステアリングを切ったときに、ロールしていく速度と、それが戻る速度が(体感的に)一致せず、ヒョコッと唐突に、車体が水平に戻るように感ずるのだ。おそらく、戻る際の“ロール速度”が速すぎるのだろうが、ステアリングをかなりていねいに操作しないと、クルマの動きがややギクシャクするような感じにもなる。

基本的に重量があり、そして重心が高く、そういう車体の“揺れ具合”をコントロールすることは簡単ではないのかもしれないが、もう少し乗用車らしく洗練された動きにならないかなと、アウトランダーの基準仕様に乗ったときには感じたものだった。

さて、そのアウトランダーに追加された仕様がこの「PHEV」と呼ばれるバージョンである。エンジンとモーターの二つの駆動装置を持つハイブリッド(HV)で、なおかつ、プラグインで充電も可能(P)。さらに、電気自動車(EV)状態での走行もできる……という“何でもアリ”方式で、その多様性がそのまま車名になっている最先端仕様だ。今日の日本メーカー市販モデルには、ハイブリッドも、プラグイン・ハイブリッドも、そしてピュアEVもあるが、そうしたクルマを“動かす”ための方式が一台にすべて搭載されているということでは、そういえば、このアウトランダーPHEVが唯一のモデルではないか。

そして、ちょっと興味深いのは、このクルマが持つ三つの走行モードには、エンジンのみで走るというモードがないこと。その三つとは、まず、モーターのみで走行するEV走行モード。そして、モーターでの走行を、エンジンが充電役をしつつアシストするシリーズ走行モード。そして、エンジン主体での走行ではあるが、それをモーターの駆動力がアシストするパラレル走行モード。この三種だが、そのいずれでも、モーターはつねに作動し続けている。その意味では、このモデルが“クルマ電動時代”の先駆け的なところにいることを示しているのかもしれない(三菱は、ピュアEVである『i-MiEV』をその市販車ラインナップに持っている)。

さて、駆動についてのそんな新提案をしているこのPHEVだが、試乗しての最大の驚きは、ソッチ方面のこと(クルマの種々の動き方)ではなかった。“走って曲がって”というクルマの挙動、ステアリングを操作したときの車体の動き、これらが実に「まとまりがいい」のだ。基準車で気になっていたロール関連の動きでも、このPHEVは違和感が非常に少ない。ロールして、また戻って……という際のトータルな動きが、リニアにしてリーズナブル(納得!)。多彩な駆動システムを搭載したために車重が重くなっており、それに対応して、足も設定し直したということだが、このチューニングがとても巧くいっていると思える。

レイアウト的に、駆動用バッテリーという重量物を車体の中央、床下に置いており、それがドーンという“重し”になっている。そのことは、このクルマを走らせているとそれなりに感じ取れ、この種のクルマにありがちな、車体の上半分だけが過剰に動くという感覚が少ない。足の設定として、ロールを抑える方向にしてあるとのことだが、それが乗り心地面でのネガにはなっていず、しっかり感と乗り心地の快適性とが両立した、いい足になっている。ちなみに「低重心化」としては、ベース車よりも数値として30ミリのダウンが行なわれているとのデータも公表されている。

また快適性ということでは、前述のように基本がいわばEVであるため、走るためのシステムをオンにしてもエンジンが掛かるわけではない。シーンとした状態からクルマは走りはじめるわけで、その事実に対応すべく、静粛性の確保については大いに技術とコストが投入されている。フロントウインドーは遮音ガラスであり、そして、エンジンルームやタイヤハウス内にも吸・遮音材が追加されているという。実際に走行してみても、音の静かさはさまざまな局面で体感できる。

こうして見てくるとイイコトだらけのPHEVだが、問題がひとつあって、それはやっぱり“お安くない”こと。駆動するための装置だけでも複数あるし、部品点数だって増えただろうし…ということで、まあそれは当然ではあるかもしれない。一方では、静粛性にしても段違いといえばその通りであって、さらには、現時点での「クルマの動かし方」の技術すべてを体感できるという一種のニュース性もある。それらをみな勘案して、基準モデルとの価格差をどう見るか。アウトランダーPHEVは、そんな問いかけをして来るようなシリーズ中のスグレ・バージョンであった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★

家村浩明|ライター&自動車ジャーナーリスト
1947年、長崎生まれ。カー雑誌やムックなどの編集を経て、1983年頃よりクルマ関連を中心に執筆活動をはじめる。クルマは“時代を映す鏡”として興味深いというのが持論で、歴史や新型車、モータースポーツとその関心は広い。市販車では、近年の「パッケージング」の変化に大いに注目。
日本メーカーが日常使用のための自動車について、そのカタチ、人とクルマの関わりや“接触面”を新しくして、世界に提案していると捉えている。
著書に『自動車コラム大全1984~1989』『最速GT-R物語』『プリウスという夢』(以上、双葉社)『ル・マンへ……』など。大久保力氏の著作『百年のマン島』(2008年・三栄書房)には編集者として関わった。

《家村浩明》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集