【大阪オートメッセ13】真夏のリオと対極の祭典へ…建築家

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隔年で開かれる日本最大の自動車ショーと位置づけられる「東京モーターショー」という主流に対して、「東京オートサロン」や「大阪オートメッセ」は、やや亜流を行くイベントというのが私の認識だったが、この2月9日から開かれた大阪オートメッセは、私にとって「目からウロコ」であった。

◆カスタマイズ文化は現状を好転させる原動力になり得る

第17回目となる今年のオートメッセは、第1回当時には真面目な量産車に対するいわばアウトロー的な雰囲気がその人気の底流にあったようだが、いまは大きくさま変わりして、これはもう、一つのクルマ文化のおおきな潮流になる魅力と底力を備えていると言っていい。若者のクルマ離れとか、実際に新車の販売が伸び悩んでいることから、クルマの将来を危ぶむ報道などが巷にあふれているが、もしそれが動かしがたい事実だとしても、これからの大阪オートメッセや東京オートサロンが、クルマを求める人々の潜在的なニーズをより的確に掘り出して、その現状を好転させる原動力になるかも知れないとさえ思える。

私にそう感じさせたのは、いつもの定番のような珍車や痛車などの数が減って、主流たる量産メーカーが本格的に参加し、その人気車種をベースにした、魅力あふれるバラエティー・モデルを多数出品してきていることだ。

個々の量産メーカーの展示の印象については別項に譲るが、ケバケバしいデコレーションや後輪が空を向いてしまったようなシャコタンなど、いつものアイキャッチャーに混じって、特に私の興味を引いたのは、「555TES Minute-S」という3輪の超小型ハイブリッド・カーだ。トヨタの有志が集まって作るトヨタ技術会という組織が、仕事の合間を縫って自分たちの好きなクルマを自由に作ろう、ということで、過去のいくつかの試作車を経て、今回は「側車付き二輪車」という法規上の制約内でヤマハの250ccエンジンとアクアのハイブリッド・システムを合体させ、実用に耐えかつ走って楽しいクルマが実現したのだ。

こうした動きはトヨタのような大会社の将来に向けた密かな戦略の一つとも思えるが、クルマが人々の生活の中で今よりもっと楽しい存在になり、それがまた新しいクルマビジネスの展開に繋がるのであれば大いに歓迎すべきだ。

◆「ウラ」の祭り

大阪の港湾地区に展開する広大なインテックス大阪の会場を歩いてみて気がついたのは、来場者が非常に多く、しかも遠方からやってきていることだ。駐車場にあるクルマのナンバーからも九州や山陰、四国、北陸辺りからも多い。若者ばかりでなく乳飲み子を連れた若い家族連れや、クルマで遊んだ青年時代を忘れられない中高年男性など、毎年三日間で20万人を超えるという。

東京モーターショーが「オモテ」の祭りとすれば、これは確かな存在感と庶民のホンネの支持を獲得した「ウラ」の祭りである。祭りはその背後にムラという不特定多数の集団があって成り立つが、カスタムカーやパーソナライズされたワンオフ・カーなどへのニーズとそれに答える数々の中小メーカーや団体はそのムラを確実に形成しつつある。

日本のあらゆる文化にはその根底にムラという、見えないが確実な実態があり、ムラにはその存在を確実にするための祭りがあって、年に一度は執り行われる。大阪オートメッセはまさにその祭りなのだ。祭りには御神輿とその神殿への奉納という儀式がいる。オートメッセの広い会場に展開されるカスタムカーやワンオフカーたちは、まさにお祭りのための御神輿だ。

◆カスタムカーを御神輿に

私はここで提案したい。三日間の会期の最終日を、単に時間切れで終了するのではなくて、最終日の午後すべてをこのお祭りのクライマックスにもっていくイベントにしたい。出展された御神輿(カスタムカーたち)を全て動かして、会場周辺の道路をゆっくり周回する。御神輿をかついで練り歩くのだ。

来場者も沿道に並んで声援を送る。クルマは展示場に鎮座しているよりは、動いている姿を誰もが見たいものだ。エンジンの大爆音も、巨大ウーファーの大音響もこの時ばかりは許される。パレードの先頭にはブラスバンドが先導し、人気グループの踊りがそれに続く。折しもこの2月8日、地球の反対側ではリオのカーニバルが始まった。こちらは真夏のリオと違って真冬だが、寒さを吹き飛ばすような熱いパレードが観客を熱狂させる。

インテックス大阪は幸い会場の真ん中に巨大な広場があるので、周回を終えた御神輿たちはすべてここに集結。広場に隣接する巨大な円形屋根で覆われたイベント広場では、オートメッセのクライマックスとして二つのイベントを行う。ひとつは全展示車のなかから最高人気車を、もうひとつはお約束のコンパニオンの女王を来場者の投票で選ぶのだ。そしてこのムラの祭りの最後の儀式として、選ばれた御神輿とコンパニオン女王を神殿に奉納する。その撮影大会は大変なことになるだろう。

このすべてをひとつの『おとぎ話』としてオトナの感性で執り行なうことが、カスタムカー文化とそのムラの永続性と発展を約束する。

1960年代からようやく始まった日本の本格的なモータリゼーションも、いま、環境問題や世界的な経済の低迷と混沌に直面する中で、この新しく勃興して来たオートメッセやオートサロンに代表されるクルマ村とそのお祭りが牽引役となって、新たな地平線を目指すことになるだろうと私は信じている。

白井順二|建築家/アーバンデザイナー
1938年生まれ、アメリカに30年居住、その間インドに1年、サウジアラビアに2年、大学で教鞭をとる。赤坂のアークヒルズ外構設計、シンガポール高島屋設計担当、大阪梅田北ヤードコンペ優勝、海外での環境問題の講演多数。クルマのメカニズムや運転が趣味で『カーグラフィック』誌などに寄稿多数。A級国内競技ライセンス所持。クルマでの北米大陸、インド、ヨーロッパ全域のドライブ数万キロ。

《白井 順二》

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