漁師はスピードを競うために船を駆るのではない。いちばん重要視する点は、漁師が常用する回転域でどれだけ使いやすいか。その面で新エンジンホンダ『BF250』を操った手応えはどうだろうか。
「パワーがぜんぜん違うね。スピードが出るというより、これまで使っていたBF225と同じ走りが、それほどふかさなくてもできる。225なら3000回転まで上げた操船が、250なら2500回転で済むような感じ。燃費が良くなるってことだから、ありがたいね」と佐藤裕一氏。
「私らは沖合の養殖筏で水揚げしたカキを満載して港へ帰ってきます。行きは空身だけど、帰りは積載重量が1tを越えるんですよ。BF225は、帰りの船足はぐんと落ちました。もうちょっと馬力があったなら、と思う場面は多かったです。BF250は、空身と変わらない感覚で走れる。今朝も1.5tばかりカキを積んで走りましたが、余裕でしたね」と、内海氏。決してお世辞が上手とは言えない浜の漁師たちが、BF250を絶賛する。
■高出力で使いやすく、省燃費で経済性を両立
これまで250馬力を絞り出すハイパワー船外機は、バスフィッシングなどのプレジャーボートにしかフィーチャーされてこなかった。漁業のプロ向けには、BF250が初めてという。その設計には、ホンダの乗用車でおなじみのいくつものテクノロジーが、惜しみなく投入されている。
基本は上級ミニバン『エリシオン』のエンジンをベースに新開発した3.6リットルのV型6気筒VTECエンジン。高性能、低燃費、信頼性は既に実証済みだ。船外機としては初の技術となるダイレクト吸気システムも採用され、燃焼効率を高めて高出力を達成している。また、独自の船外機技術として、空燃比連動点火時期制御[BLAST]を採用し、中・低速域での優れた加速性を実現した。ホンダ技研汎用R&Dセンターで開発に当たってきた田和寛基氏は、「クラストップの低燃費と高い動力性能をした」と力をこめる。
「O2(オーツー)センサーを搭載した電子制御燃料噴射装置PGM-FI で、希薄な混合気を燃焼させるリーンバーン性能を高めました。スロットルを抑えても燃焼が効率よく回転特性を追求しています。また馬力だけでなくトルクを上げて粘り強く仕上げ、収穫を満載した船がより短時間に、より少ない燃料消費で帰って来られる実用性を追求しました」
より多くの資材や収穫を積み、スピードは落とさずにより少ない燃料消費で、漁場と船着場の往復を少なくする。それは漁師にとって、また津波被害からの再起を目指すためにも、コストダウンを達成する大きなアドバンテージになる。
3.11から発表会まで約8ヵ月。この間、住民や漁師は必死になって復旧に当たり、ようやく漁に集中できる環境が整ってきた。発表会前の段階で、数人の漁師がBF250を予約している。東北太平洋岸の漁業の再起を、BF250は加速していくことだろう。