【スバルの先進安全技術インタビュー】「楽をさせる」ではなく、「乗員を守る」ということ

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新型アイサイトのステレオカメラ
  • 新型アイサイトのステレオカメラ
  • スバル商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャー 熊谷泰典氏(左)と森口将之氏
  • スバル商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャー 熊谷泰典氏
  • スバル技術本部車両研究総括部部長 芝波田直樹氏
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  • 全車速追従機能付クルーズコントロール

スバルは「安全性の追求は最重要テーマのひとつ」として、スバル『360』の時代から安全を強く意識したクルマづくりを続けている。

視界の確保やシンメトリカルAWDレイアウトの採用といった基本構造から事故を予防する「0次安全」、ABSやブレーキアシスト、VDSのように事故をクルマの操作によって回避する「1次安全」、そして万が一事故が起こってしまった場合に乗員を守る衝突安全技術の「2次安全」と、安全を実現するためのステップを設定し、「オール・アラウンド・セーフティ」の実現を目指す。

スバルの安全技術に対する取組みの歴史、そして将来について、スバル商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャーの熊谷泰典氏、そしてスバル技術本部車両研究実験総括部で部長を務める芝波田直樹氏にお話を伺った。

◆飛行機作りから培われた「安全は本能」の精神

----:先ほどの説明会で見せていただいた、スバル360の衝突実験のビデオには驚きました。衝突する直前には「どうなってしまうんだろう」と心配しましたが、しっかりフロント部分だけで衝撃を吸収していました。

熊谷氏:スバル360の開発責任者だった百瀬晋六さんの志に、安全性がありました。飛行機作りの経験がある人なので、フェイルセーフには最初から気を遣っていたのだと思います。乗り物にとって安全は本能だと思っていたのでしょう。

----:安全性は昔から最重要課題だったわけですね。しかし長い歴史のなかでは、どこかでジャンプアップした時期があったと思います。たとえば『レガシィ』では、そういうターニングポイントはあったのでしょうか。

熊谷氏:いままで以上に安全性に積極的に取り組むようになったのは3代目からです。この頃からJNCAPが始まり、法規面の要求が厳しくなった。それに対応して「衝突安全世界一を目指そう」という目標を作ったのです。その結果生まれたのが環状力骨構造です。漢字を使った呼び名がスバルらしいですが、アメリカで多いロールオーバーに対応した構造でもあります。アメリカの道にはガードレールがなく、路肩が窪んだ場所が多いので、進路を逸脱すると転倒につながるのです。

◆JNCAPグランプリ受賞をもたらした安全技術とは

----:今回2009年度のJNCAPで、「自動車アセスメントグランプリ09/10」受賞となりましたが、衝突安全性については水平対向エンジンのメリットも大きいと思います。あまり宣伝されていないようですが、その点はどうでしょうか。

熊谷氏:水平対向エンジンは(搭載位置が)低いので、歩行者保護の点で有利です。しかも前面衝突時にエンジンがフロア下にもぐり込むようになっている。プロペラシャフトを折れやすくしたおかげもあります。今後はこの点も積極的にアピールしていきたいと思っています。

----:アクティブセーフティについては、やはり低重心の水平対向エンジンと左右対称AWDシステムが核になっていると。

芝波田氏:スバルは前輪駆動を作る前、「P-1」という後輪駆動車を試作したことがありますが、それは非効率であるという結論になり、水平対向4気筒FFのスバル『1000』に転換した経緯があります。その結果が現在のシンメトリカルAWDにつながっているわけです。『レオーネ』まではオフロードも考慮して車高を上げていましたが、レガシィからはオンロードの走行安定性を重視するようになりました。その後も進化は続けています。たとえばエンジンと前輪の位置関係では、トランスミッションやデフの構造を工夫することで、エンジンを後方にずらし、重量配分の適正化を図っています。またエンジンの前後長についても、できるだけ抑えるように設計上の工夫をしています。

----:それ以外に安全性に対して気を遣っている部分はありますか。

芝波田氏:「視界」があります。スバルでは360度全方位しっかり見えることが大切だと考えています。それは当社の前身である中島飛行機の時代から変わりません。そんな歴史もあって視界要件には厳しいですね。後方1mの位置にある円柱が見えなければいけないなど、いろいろな社内規定をクリアしなければなりません。現行型はボディが大型化して、後方視界がつらくなりそうだったので、リアビューモニターをつけて規定をクリアしました。前方視界では、Aピラーを前に出すことは許されていません。またアウトバックでは、側面の確認が補助ミラーをつけなくても見えることを心がけました。

◆アイサイトは「ラクをさせる」のではなく「お客様を守る」ため

----:アイサイトはどういう経緯で生まれたのでしょう。

熊谷氏:富士重工の社風として、新しい技術を考えるのが好きというのがあります。これらは先行技術開発を担うスバル研究所の担当ですが、ASV(先進安全自動車)や自動運転もかなり前から手がけていました。アイサイトはその流れの上にあるといっていいでしょう。先ほどの視界の話に関連しているのですが、アイサイトはガラスのなかに装備した点がポイントです。ワイパーで雨滴を拭えるので、つねにクリアな情報が入る。ステレオカメラも空の乗り物からのフィードバックで、ヘリコプター用の高度計に使われた経験があります。

----:ライバル車が採用しているレーダー方式に対する優位点はどんなところがありますか。

芝波田氏:人間が得る情報量の7割は目から入るというデータがあります。視覚というのはそれだけ重要なのです。レーダーは触覚のような存在で、視覚とは違うのではないかと考えています。

----:プリクラッシュブレーキの実用化に際しては、どんな部分が大変でしたか。

熊谷氏:法規面の制約が大きかったですね。機械に頼りすぎてはいけないという国土交通省の指針がありますから。以前のアイサイトでも、直前で止まれる制動能力はあったのですが、最終的に接触する設定にしていました。今回はあえて急ブレーキで止まるような制御にして、注意を喚起しています。

----:ゆくゆくは自動運転を目指すのでしょうか。

熊谷氏:スバルとしては、自動運転とは一線を引きたいと考えています。プリクラッシュはそもそも、衝突したときの被害を軽減するという発想で生まれました。アシストなのです。全自動とは別の考え方の上で成り立っているメカニズムであると理解してください。「お客様を守る」ことが大切なのであって、「ラクをさせる」ことは考えていません。

芝波田氏:アイサイトはステレオカメラで車線もチェックしています。現行レガシィは電動パワーステアリングを採用しています。この2つを組み合わせれば、自動運転はできるでしょうけど、インフラも整っていません。また、外部の電波に反応することがあるなど、信頼性もまだ100%とはいえません。

◆信頼性には細心の注意を

----:ところで最近、再び自動車の安全性や信頼性がクローズアップされてきていますが、それについてはどんな考えをお持ちですか。

芝波田氏:私たちのテストでは「イジワル試験」や「フェイルモード探し」と呼ばれている実験をやっているほどで、とにかく信頼性には気を遣っています。FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)と呼ばれる、飛行機の分野で始まった故障状況や影響の解析作業も早くから導入しています。

熊谷氏:アイサイトも、現行レガシィの発表後1年かけて熟成してきました。これも信頼性重視の現われと言えるのではないでしょうか。

----:アイサイト以外で、今後チャレンジしてみたい安全技術はありますか。

熊谷氏:たくさんあります。たとえば居眠り防止や酒気帯び検知です。これらはすでにテストを進めています。ただ全部を一度に搭載することは難しいので、その分野のトップランナーになるという観点から、何を率先してやるかどうかを決めているところです。

《森口将之》

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