【D視点】優越の紋章…ベントレー スーパースポーツ

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コンチネンタルスーパースポーツ
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最強だが、地球にヤサシイ!

ベントレーコンチネンタルの最強モデル『コンチネンタルスーパースポーツ』が日本にも導入された。6リットルW12気筒のエンジンは、最高出力630馬力、最高速329km/hなど、圧倒的な性能にもかかわらず、フレックス燃料にも対応している。後席を削った大胆さが目を引く。

ベントレーは日本では馴染みは少ないが、アジアでは人気があり、販売を順調に伸ばしている。ベントレーを有名にした「スピード」のネームを冠した『スピード8』が、2003年ルマンで73年ぶりに優勝するなど話題づくりも怠りない。「スーパースポーツ」のネームも、100マイル/h達成の『3リットルスーパースポーツ』に因んでいる。

デザインは、既に発表されている4シーターの「コンチネンタルGT」を基本にして、フロントバンパー周りを中心に小物部品でスーパースポーツを仕立てている。エコの時代にもかかわらず、ラグジュアリーカーのキーワードは最強、最速だと主張しているかのようだ。

独立したリアホイールアーチのデザインは、最近のドイツ車だけではなくイタリアの高級車にも採用され、復古調の先端を切っている。しかし、往年の名車『Rタイプコンチネンタル』のそれが、暖かみのある膨らみに対して、コンチネンタルGTは石のような冷たさを感じさせるのは、突出した性能と同様、ゲルマンの血が入った証なのであろう。

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バッジエンジニアリングのラグジュアリーカー

レースや、エンジン設計に優れた才能を発揮したウォルター・オーウェン・ベントレーは、1919年にベントレーモーターカーズを設立し、ルマン24時間レースで5回も優勝するなど、高級スポーツメーカーとして、富裕層に広まっていった。

しかし、1920年後半に世界を襲った大恐慌により経営不振に陥った際、ロールスロイスに吸収合併されてしまう。以降、ベントレーのモデルは、ロールスロイスのオーナーユース向けモデルとして、ロールスロイスのクルマをベースに、車名を始めとして、オーナメントやフロントグリルなどを変えて販売する、いわゆるバッジエンジニアリングによって存在することになる。

ロールスロイスは、クルマだけではなく、世界的な航空機エンジンメーカーだが、ジェットエンジンの開発失敗から多額の負債を発生させて国営企業となる。自動車部門は、一時繊維機械メーカーに買い取られるが、1998年にはフォルクスワーゲングループに入る。

さらに2003年、ロールスロイスがBMW傘下に入ることにより、ベントレーは、ロールスロイスからの独立を果たす。現在、新生ベントレーとロールスロイスは、それぞれ専用モデルを有しており、今後の展開は、ラグジュアリーカーブランド研究の好材料でもある。

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ラグジュアリーカーのありよう

ヨーロッパを訪問すると、人工的にも見える木々と、雑草のない草原の風景が目に焼きつく。夏の乾燥と、冬の湿潤、そして穏やかな風の賜物なのだ。和辻哲郎は、著書「風土」で「人間存在の構造契機としての風土性を明らかにする」ことを目ざし、ヨーロッパに於いては、維持の容易な牧場や整然と育つ木々などから、自然の従順性や合理性を感受し、自然のなかに規則を探求せしめたと述べている。

牧場的な風土から生まれた自然科学により、自然を征服するだけではなく、優越なる自己確認のために、都市や芸術など活動の足跡を残すことにも執着した。このように考えると、ヨーロッパ文化から生まれたクルマ、特にラグジュアリーカーのありようが見えてくる。

ベントレーには、ビンテージ時期にレースで活躍したモデルもあるが、デザインに関してはロールスロイスに吸収された後のRタイプコンチネンタルや『S3コンチネンタルフライングスパー』の印象が強い。コンチネンタルは高性能車に付けたネームで、ボディはコーチビルダーの手作りでオリジナル性も高い。

ニューモデルにおいても、エンブレムは勿論、丸みを帯びたフロントグリルをはじめとして歴史のあるデザインの基本を守っている。それ故、ベントレーのスタイルは、ヨーロッパの人々の心情にも一致する。また、ヨーロッパの文化にノスタルジーを感じるアメリカ人や、憧れを持つアジアの人々の共感も得ることが出来るのだ。

D視点:
デザインの視点
筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』、2代目『マーチ』のプロデュースを担当した。東京造形大学教授を経てSTUDIO MATSUI主宰。【D視点】連載を1冊にまとめた『2007【D視点】2003 カーデザインの視点』を上梓した。
《松井孝晏》

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