「ゼロからではなく、マイナスからの再出発」
富士スピードウェイ(FSW)では、F1日本グランプリ(10月10 - 12日)開催に向けて、着々とインフラ整備が進んでいる。
今年4月からはじまった改修は総工費20数億円ともいわれる規模! ファンにしてみれば、「なぜ、昨年の日本グランプリ開催前に気がつかなかったのか?」「F1開催を目指して2005年にリニューアルした時点でやっておけば……」などの思いを抱きたくなるのも当然だが、今は「実際にやってみてわかった問題点を解決するための改修」ということで、前向きに考えたい。
大混乱に終わった昨年を受けての2年目開催ということで、今年新たにFSWに着任した高瀬由起夫F1事業本部長は「ゼロからではなく、マイナスからの再出発」と、不退転の決意で陣頭指揮にあたっている。
◆決勝日の想定観客動員数を14万人から11万人に縮小
昨年は第1コーナーのC指定席の仮設スタンド部分の傾斜角度が足りず、なんとコースを走るマシンが見えないという事態が発生した。指定席料金の返金にまで発展した騒動が再発するようなことは、間違ってもあってはならない。今年は3月の段階で、きちんとした角度に設定された仮設スタンドの“見本”を現地(C席)にて報道公開するなど、ぬかりない対応で、ひと安心。
また、今年は決勝日の観客動員数を昨年の14万人想定から、11万人相当へと縮小している。B指定席を撤廃するなど、スリム化(適正化)というメスを入れることで、観客に無理を強いることが少なくなるような配慮が施されてもいる。
バスと歩行者がスムーズに動けるよう、場内の道路&歩道を拡幅する工事も進行中。ダンロップコーナー付近には、臨時のバス出入口も設けられた。同付近には関係者専用道を跨ぐ歩道橋も新設される。そして場内スピーカーや照明設備の拡充も行なわれている(単純計算でスピーカーは前年比2倍、照明施設は同2.75倍に)。
◆スタッフの対応カイゼンも課題
そして、これら“ハード面”の進化と同時に、いやそれ以上に大切なのが“ソフト面”の充実だ。昨年は、大混乱のなかでスタッフの対応が質・量ともに不足したことが指摘されている。高瀬氏も「まさに一番大事なこと」と位置づけ、スタッフ教育に力を入れている。ただ、こればかりはハード面と違って事前の進捗状況が見えにくいものだ。結果がすべて、ともいえるだけに、本番での成果を信じて、期待するしかない。
◆主催者側の努力だけでなく観客側の理解と協力も必要
FSWといえば、雨は避けられない。今年はグランドスタンド裏に常設の雨宿り施設を新設するほか、各所にテントなどの仮設雨宿りポイントも設けられる予定だが、当然、全観客をカバーできるはずはない。
この件について高瀬氏は、6月の工事公開の際に「あくまでも屋外イベントであることは理解していただきたい。我々も万全を尽くしますが、食事が終わったら次の方に屋根下を譲るなど、観客の方々にも協力をお願いしたい」旨を語っていた。これは当然のことで、昨年のことがあるからと文句ばかり言うのではなく、観客の側にも理解と協力が必要なのだ。よりよいグランプリにするために---。
今回の取材であらためて高瀬氏に訊くと、「日本グランプリの観客のみなさんは、我々がそんなことをあらためて言わなくても、自然にそういったことをやっていただける方々だと思っております」とのこと。
FSWと観客の間に信頼関係が生まれてくれば、さらなる好転も期待できよう。