【神尾寿のアンプラグドWeek特別編】『iPod』と『着うたフル』の本質的な違い

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■音楽CDレンタル業界との競合

着うたフルにはもうひとつ、レコード会社を乗り気にさせる仕掛けがあると、筆者は考えている。

それは「音楽CDレンタル業者との競合」である。

ここまでで述べたとおり、着うたフルは音楽CD販売とは競合しないように腐心されている。しかし、音楽CD購入前に、CDより割安な値段で音楽コンテンツを楽しめるというサービスは、音楽CDレンタル市場と競合する可能性がある。

特に収録曲が少なく、足の速いCDシングルレンタルとは確実に競合するだろう。前出の神山次長も「結果的に音楽CDレンタルと競合する可能性はあります」と語っている。

音楽CDレンタルとの競合が、なぜレコード会社を「乗り気」にさせるのか。

音楽CDレンタルは1984年の著作権法改正によって生まれた「貸与権」に基づく健全なビジネスであり、レンタル1回もしくはCD1枚あたりの著作権使用料が権利者に支払われている。しかし、レコード会社にとって「悩みのタネ」になっているのが、ユーザーを取りまく環境が1984年当時と様変わりしていることだ。

1984年当時、一般ユーザーがレンタルしたレコードやCDを「私的複製」する装置はアナログテープしかなかった。しかし、1992年にミニディスク(MD)が誕生。2000年以降、パソコンとCD-Rが普及し始めて、一般ユーザーの間にデジタル録音・複製技術が普及していった。今ではパソコンのハードディスク容量の増大と、iPodなどポータブルHD音楽プレーヤーの登場により、音楽CDの内容を高ビットレートでリッピング(録音)してライブラリー化する使い方が急速に広まっている。
 
使い勝手と音質が損なわれないデジタル録音技術の進歩により、レンタルCDの音源としての価値が急速に高まったのである。

しかし、これはレコード会社にとって頭の痛い問題だ。

使い勝手や音質面で音楽CD購入の優位性が確実ならば、音楽CDレンタルを「お金の取れるプロモーション活動」と位置づけることができる。だが、デジタル録音技術の発達がその優位性を失わせてしまい、音楽CD販売への影響が無視できなくなっている。特にCD-Rやハードディスクへのリッピングは、MDのように音楽業界主導の市場ではないため、著作権的なコントロールが極めて難しい。

コピーコントロールCD(CCCD)導入の要因のひとつが、CDレンタルを音源にする「デジタル録音/カジュアルコピー」であったことは記憶に新しい。

一方、着うたフルは、音質面、そしてビジネスモデルともに、レコード会社に配慮した上で、カジュアルな音楽環境をユーザーに提供しようとしている。レコード会社にとって、音楽CDレンタル市場よりも少ないリスクで楽曲提供による「お金の取れるプロモーション」が可能だ。またKDDIが用意したDRM技術を活用すれば、ユーザーが受け入れやすい価格設定もできるだろう。

着うたフルの前身である「着うた」は、レコード会社のビジネスの外で発展した着メロ市場に対する、レコード会社の挑戦心・敵愾心を刺激したことで、多くの楽曲を新市場に引き出したという経緯がある。

同様に、着うたフルが音楽CDレンタルよりもレコード会社にとってメリットのあるカジュアル音楽市場と受け入れられれば、レコード会社が持つCDレンタル市場に対する不安感や危惧感から、積極的な楽曲提供が行われるだろう。結果的にせよ、着うたフルが音楽CDレンタル市場と競合することが、コンテンツの増加に追い風となる可能性がある。

だが、あまりにユーザーを無視した価格設定や著作権コントロールは、利用者の反発を招く。CCCDの失敗はそれを如実に表している。

着うたフルの本質は、iPod + iTunes Music Storeとは違うアプローチでカジュアル音楽市場を切り開くことだ。しかし、それはレコード会社の思惑とユーザーニーズの狭間に立ち、絶妙な舵取りを要求される難事業でもある。

着うたフルを成功させられるか。

それは携帯電話のメディア化を推進するKDDIにとって、その手腕を問われる試金石になるだろう。

《神尾寿》

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